ニュートンの大砲
万有引力の発見

時は17世紀。

世界はまだ天と地が分かれた二つの理の中にあります。庭先のリンゴが土へと還る「当たり前の現象」と夜空を静かに征く月が描き出す「神秘的な運動」は人々にとって全く別の理法に支配された出来事でした。

地上の万物は汚れ、やがて朽ちる。天井の星々は、紙が定めた完璧な秩序の中を巡る永遠の存在。

誰もがそれを疑わなかったとき、その二つの世界を一つの糸で結びつけようとする孤独な思索が始まります。

思考実験

ニュートン

アイザック・ニュートンは、ある大胆な仮説を抱きます。「もし、月もまたリンゴと同じように地球に向かって落ち続けているのだとしたら?」この着想を検証するため、ニュートンは頭の中で思考実験を試みました。

それは、空気の抵抗すら届かないほど高い「架空の山の頂」に立ち、真横に向かって砲弾を放つというものです。

1)地への帰還(低速)

まずは、ゆっくりと砲弾を放ちます。

砲弾は放物線を描き、山の麓からそれほど遠くない地上へと着地します。

これは、日常で見慣れたリンゴが木から落ちるのと同じ「地上の理」に従った動きです。

2)水平線の彼方へ(中速)

さらに速く砲弾を放ちます。

砲弾は地平線の向こう側まで飛んでいきますが、地球は丸いため、砲弾が落ちるのと同時に地面もまた砲弾から逃げるように湾曲していきます。着地点は遠のきますが、それでも砲弾はいつか地上に着地しました。

3)永遠の落下(第一宇宙速度)

さらに速度を秒速 7.9 km まで引き上げます。

砲弾が地面に向かって落ちる距離と、地球の表面が丸く湾曲して遠ざかる距離が完全に等しくなります。

砲弾は地面に向かって「落下」し続けているにもかかわらず、地平線が同じ速度で逃げていくため、永遠に地表には届かい状態となります。

4)地を離れ宇宙へ(第二宇宙速度)

さらに速度を秒速 11.2 km まで引き上げます。

地球が砲弾を引きつけようとする力よりも、砲弾が遠ざかろうとする勢いが上回ります。

砲弾は二度と戻ることのない直線的な軌道を描いて宇宙の彼方へと飛び去っていきます。

境界線の消失

ニュートンは、この思考実験によって「地上のリンゴを落とす力」と「天上の月を繋ぎ止める力」が別々の原理ではなく、同じ「重力」という力によって支配されているという確信を得ます。

天と地を分けていた理は消え去り、この世界のあらゆる場所で共通の法則が働くことが示されました。

法則の普遍化

ニュートンは、この力が地球と物体の間だけに働く特別なものではなく、地球がリンゴを引くように、リンゴもまた地球を引いている。月と地球、太陽と惑星の間にも同様の関係が存在しているとの考えに至ります。

この「互いに引き合う力」を、この世界のあらゆる場所に共通する「万有引力」として定義しました。

数理による定義

ニュートンは、この引き合う力がどのようなルールに従うのかを突き詰めていきます。

膨大な観測データと数学的な推論から、力は物体の「質量」が大きくなるほど強まり、物体間の「距離」が離れるほど急激に弱まっている関係を簡素な関係式へ集約させます。

逆二乗の法則

𝐹 = 𝐺 ⁢⁢ 𝑚 1 ⁢⁢ 𝑚 2 𝑟 2

  • 𝐹

    万有引力

  • 𝑚

    物体の質量

  • 𝑟

    物体間の距離

  • 𝐺

    万有引力定数

この式が意味するのは、「この世界のどこであっても質量を持つもの同士は距離の二乗に反比例し質量の積に比例する力で引き合っている」という真理です。

アイザック・ニュートン

(Isaac Newton / 1642-1727)

イングランドの物理学者、数学者、天文学者。

ペストの流行により大学が閉鎖された休暇期間(「驚異の諸年」)に、万有引力、微積分法、光学の基礎を築く。1687年に歴史的著作『自然哲学の数学的諸原理(プリンキピア)』を発表し、近代物理学の父となる。

ケンブリッジ大学教授、王立造幣局長、王立協会会長を歴任。

説明

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